このページで紹介する「協会の活動からみるサウンドスケープの世界」は、2013年10月5日〜12月1日に千葉県立中央博物館で行われた日本サウンドスケープ協会20周年展「音風景の地平をさぐる」に展示した内容をウェブ用にリデザインしたものです。
関連データ
○ 20周年展案内(PDF)
○ サウンドスケープの教室概要(PDF)
○ 20周年展の総括
サウンドスケープとは?
その用語と考え方
私たちがきく音の世界。それが、サウンドスケープ[soundscape]です。
この言葉は、カナダの現代音楽作曲家、 環境思想家、教育家でもあるR.マリー.シェーファー[R.Murray Schafer]により、 1960年代末に提唱され、世界中に広まりました。
日本語では一般に「音の風景」と訳され、専門的には「個人、あるいは社会によってどのように知覚され理解されるかに強調点の置かれた音環境。それゆえサウンドスケープは、個人(あるいは文化を共有する人々のグループ)とその環境との間の関係によって決まる」 (A Handbook for Acoustic Ecology, B.Truax ed.,1978 )と定義されています。
日本サウンドスケープ協会は、このように音の世界をとらえることで、より良い環境と持続可能な社会のあり方を追究し、その実現をめざします。こうした活動は、これまでの近代文明のあり方をその根本から問い直すことにもつながります。
サウンドスケープという用語とその考え方は、地球上のさまざまな時代や地域の人々が、音の世界を通じて自分たちの環境とどのような関係を取り結んでいるのか、どのような音を聞き取りそこからどのような情報等を得ているのかを問題とし、それぞれの音環境を個別の「文化的事象/音の文化」として位置づけます。したがって、サウンドスケープとは「世界を聴(聞)く行為、音の世界を体験する行為によっておのずと立ち表れてくる意味世界」であるともいえるのです。
そこでは、音楽や言語といった「人為・人工の音」はもとより、潮騒や風の音、虫や鳥、動物等の生物の音などの「自然の音」、さらに「静けさ」や「賑わい」といった音環境の特定の状態をも問題にします。また、個別の音を問題にする場合にも、その音をそれが成立する環境全体の文脈のなかに引き戻し、その内容を把握しようとすることを特徴とします。
私たち一人ひとりが、自分自身の日々の生活に根差して、これまでバラバラになりがちだった、科学、芸術、各種の社会活動をつなげながら、音の世界(さらにはそれを切り口とした環境)を把握し、その内容を人々と分かち合い、これからの真に豊かな生活を構想し、その実現をめざすのが、サウンドスケープの考え方なのです。
サウンドスケープ研究とは?
人間とその環境の音との関係は何か、 またこれらの音が変化する時に何が起きるのか。 サウンドスケープ研究とは、 これらさまざまな研究を統合する試みである。(M.シェーファー『世界の調律』より)
「サウンドスケープ研究 [soundscape studies]」とは、サウンドスケープの考え方をもとに成立する研究領域。つまり、音の世界とそれを把握する人間との関係を考察するものです。
「音の科学」はこれまで、対象とする音あるいは音環境の物理的特性について、同時にそれを体験する人間の聴取や認知のメカニズムについて、その解明と理解につとめてきました。
つまり、従来の音の科学は、音の世界を専ら「物理的/心理的/生理的」次元で扱ってきたのです。これに対し、サウンドスケープの考え方を踏まえた「新しい音の科学」は、同じ音の世界を、そうした従来の次元のみならず「地理的/社会的/文化的/歴史的/美学的」その他、さまざまな次元を含めて問題にしようとします。
サウンドスケープ・デザインとは?
サウンドスケープの考え方が、現代社会に「新たな課題」として提起しているのが「サウンドスケープ・デザイン」です。
一般に「デザイン」というと、大量生産・大量消費のシステムを前提とした「モノづくり」、音の世界に関しては「音づくり」に関する活動であると考えられがちです。しかし、音の世界を手がかりに現代社会の環境を保全・計画・整備していく「サウンドスケープ・デザイン」において、その手法は、従来の「音づくり」(音を対象とした場合は「プラスのデザイン」)に留まらず、「音の規制」(音に対しては「マイナスのデザイン」)や、「音および音風景の保全」(同じく「ゼロのデザイン」)といった各種の手法を含みます。
なぜなら、サウンドスケープの考え方が問題にするのは、個々の音ではなく、その地域や土地に既に存在する自然の音も含めた音環境全体、そのような環境とそこに生活する人々との関係そのものだからです。この点が、デザインの最終目的が「音づくり」にある「サウンド・デザイン」と「サウンドスケープ・デザイン」の根本的な違いです。 サウンドスケープ・デザインは、私たち一人ひとりの「内側からのデザイン活動」であり、「決して上から統御するデザインになってはならない」とされています。それは、「意味深い聴覚文化の回復こそが問題であり、それはあらゆる人に課せられた仕事」だからです。 サウンド・エデュケーションの実践活動も、「サウンドスケープ・デザイン」の領域内に位置づけられています。
サウンド・エデュケーションとは?
サウンドスケープの考え方に基づき、身近な環境に耳を傾けるための「聴く技術」の回復と育成のために開発された教育活動の総称が「サウンド・エデュケーション」です。
この用語をタイトルとしたシェーファーの著作 『サウンド・エデュケーション』には、「聞こえる限りもっとも遠くの音を聴きとってみよう。それは何の音?」「あなたのコミュニティを特徴づける音は?」「今ではきくことのできなくなった音/新しい音は?」等々、個々人が、また社会全体が、そうした身近な環境に耳を傾ける能力、環境の音を味わい楽しむと同時に音環境を点検評価する等、さまざまな能力を開発するための各種の具体的な課題が収められています。
これらの課題は、現代社会に生きる人々が、自分自身の環境に潜む問題点や魅力を発掘し、それらに対する具体的な行動を展開する能力を育み、自らの生活や活動をより豊かなものにするために開発されたもの。と同時に、身近な環境の音を聴くという「音を手掛かりにした環境教育」にも役立ち、電話やラジオ等の在り方も含めた現代社会の音を中心としたコミュニケーション・システムとしての環境に関するデザイン活動にも有効なプログラムです。
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